大学二年の夏、友人と二人で夜中にドライブをしたことがある。
特に目的はなかった。
ファミレスでだらだら喋っていたら午前一時を過ぎてしまって、友人が「ちょっと走ろうぜ」と言い出した。
私が車を出した。
市街地を離れてしばらくすると、周囲は田んぼばかりになった。
街灯もほとんどない。
ヘッドライトが照らすところ以外は真っ暗だった。
午前二時前だったと思う。
助手席の友人が、
「おい」
と言った。
「何?」
「あそこ、人いない?」
右側の田んぼを指していた。
少し先に、確かに誰か立っていた。
女だった。
道路から二十メートルくらい離れた田んぼの中に、こちらに背を向けて立っている。
白い服でもなければ、長い髪でもない。
薄い色のシャツに、黒っぽいズボン。
どこにでもいそうな格好だった。
だから余計に変だった。
「何してんだ、あの人」
「農家じゃね?」
「二時だぞ」
車で横を通り過ぎた。
女は動かなかった。
こちらを見ることもなかった。
私はバックミラーを見た。
すぐに暗闇に消えた。
「怖」
友人が笑った。
私も笑った。
そのときは、それで終わった。
十分くらい走ったと思う。
また友人が、
「おい」
と言った。
今度は声が低かった。
道路の左側。
また田んぼの中に人が立っていた。
さっきと同じ女だった。
同じ服。
同じ姿勢。
こちらに背を向けている。
「いやいや」
友人が身体を起こした。
「さっきの奴だろ」
「似てるだけじゃない?」
「こんな時間に?」
速度を落とした。
女の横を通る。
顔は見えない。
ただ立っている。
通り過ぎたあと、友人が振り返った。
「動いてない」
私は何も言わなかった。
一本道だった。
途中で曲がってもいない。
時速五十キロくらいで走っていた。
あの女が先回りできるはずがない。
「戻る?」
友人が言った。
「いや」
なぜか戻りたくなかった。
そのまま走った。
会話がなくなった。
私は少し速度を上げた。
五分ほど経った。
前方に何か見えた。
人だった。
道路の真ん中に立っていた。
私はブレーキを踏んだ。
車が止まった。
女だった。
こちらに背を向けている。
友人が、
「さっきのだ」
と言った。
距離は三十メートルくらい。
女は動かない。
「どうする?」
「クラクション鳴らせよ」
一度だけ鳴らした。
反応はなかった。
もう一度鳴らした。
動かない。
「バックしよう」
友人が言った。
私もその方がいいと思った。
ギアをリバースに入れた。
バックミラーを見た。
後ろの道には何もない。
アクセルに足をかけたとき、
「待て」
友人が言った。
私は足を止めた。
「何?」
友人は前を見ていた。
「……近くなってない?」
女を見る。
さっきより近い。
二十メートルくらい。
歩いているところは見ていない。
「いや、気のせいだろ」
「絶対近いって」
二人で見ていた。
女は動かない。
背中を向けて立っている。
十秒くらいだったと思う。
友人が、
「おい」
と言った。
今度は十メートルくらいになっていた。
私はすぐにバックした。
かなりの速度で下がった。
女が遠ざかる。
そのまま百メートルくらい下がって車を止めた。
「何なんだよ、あれ」
友人が震えた声で言った。
私は前を見た。
道路の真ん中に女がいる。
小さく見える。
「このまま戻ろう」
そう言って、車を切り返そうとした。
そのとき友人が、
「ちょっと待って」
と言った。
「今度は何だよ」
返事がない。
友人は助手席の窓を見ていた。
私もそちらを見る。
最初、何を見ているのか分からなかった。
友人がゆっくりと窓ガラスを指した。
夜の窓に、車内が映り込んでいた。
運転席の私。
助手席の友人。
そして、後部座席。
そこに女が座っていた。
私は振り返った。
誰もいない。
後部座席には、友人のリュックが置いてあるだけだった。
もう一度、窓を見る。
いる。
後部座席の真ん中に、女が座っている。
背筋を伸ばして、両手を膝の上に置いていた。
顔は見えない。
女は私たちとは反対側を向き、後ろの窓を見ていた。
「出よう」
私が言った。
友人は動かなかった。
「おい、出るぞ」
「待って」
「何だよ」
友人は窓を見たまま、小さな声で言った。
「前」
私はフロントガラスを見た。
遠くに、もう一人の女が立っている。
さっきまでと同じ場所。
道路の真ん中。
その女が、
ゆっくりとこちらを向いた。
距離があった。
私には顔までは見えなかった。
隣で友人が息を呑んだ。
その瞬間、助手席の窓に映っていた女が消えた。
私は車を切り返した。
来た道を、できる限りの速度で戻った。
友人も私も、一言も喋らなかった。
市街地に入って、コンビニの明かりが見えてから、ようやく車を止めた。
友人が先に車を降りた。
私も降りた。
明るい駐車場に立って、しばらく二人とも黙っていた。
「何だったんだろうな」
私が言った。
友人は答えなかった。
しばらくして、
「俺さ」
と言った。
「最後、あいつがこっち向いたの見たじゃん」
「うん」
「顔も見えた」
私は友人を見た。
聞かない方がいい気がした。
それでも聞いた。
「どんな顔だった?」
友人は黙った。
私の顔をじっと見ていた。
「何だよ」
友人が言った。
「お前だった」
「……俺?」
「うん」
私は思わず笑った。
「何それ」
友人は笑わなかった。
「本当に、お前だった」
「でも俺、隣にいただろ」
「だから言ってんだよ」
友人は少し苛立ったように言った。
それから黙った。
「どんな顔してた?」
私が聞いた。
友人はまた私の顔を見た。
「普通」
「普通?」
「何の表情もしてなかった」
少し間を置いて、
「お前の顔で、ただこっち見てた」
と言った。
それ以上、私は聞かなかった。
友人も話さなかった。
あの女が何だったのかは、今でも分からない。
あの道にも、それ以来一度も行っていない。
ただ、夜に車を運転していて、遠くの田んぼに人影のようなものが見えると、
私は今でも、
それがこちらを向いていないことを確認してしまう。
制作情報
生成AI:ChatGPT
モデル:GPT-5.6 Sol
制作:2026年9月
カテゴリー:日常の怪談
※本作品は生成AIによって制作されたフィクションです。

