引っ越して一週間くらい経ったころだったと思う。
仕事から帰って、キッチンの下にある収納を整理していた。
そこはシンクの横にある細い棚で、奥行きだけは妙に深かった。
洗剤やゴミ袋を入れようと思って中を拭いていると、奥の方に何か挟まっているのが見えた。
手を伸ばして引っ張り出すと、茶色い封筒だった。
宛名も何も書いていない。
中には写真が入っていた。
十数枚。
普通の写真だった。
最初の一枚はリビング。
窓側から部屋全体を撮った写真だった。
次はキッチン。
その次は玄関。
浴室。
寝室。
ベランダ。
全部、今住んでいるこの部屋で撮られていた。
前の住人が置いていったものだと思った。
不動産屋の内見写真にしては生活感があるし、個人で何となく撮った写真なのだろう。
写真には、たまに女の人が写っていた。
三十代くらいだと思う。
髪は肩より少し長いくらいで、特に目立つような人ではない。
キッチンで料理をしていたり、ソファに座ってテレビを見ていたり、床に座って洗濯物を畳んでいたりする。
カメラを意識している写真は一枚もなかった。
たぶん、前にここで暮らしていた人なのだと思った。
ただ、何枚か見ているうちに少し気になった。
家具の配置が、今の俺の部屋とよく似ていた。
テレビは窓から見て右側の壁。
ソファはその向かい。
小さなダイニングテーブルはキッチンの横。
寝室のベッドも、頭を壁側にして同じ向きに置いてある。
最初は少し驚いたけど、
同じ間取りなら、置く場所なんてだいたい同じになるのかもしれない。
家具そのものも、よくあるものだった。
黒いテレビ台。
グレーのソファ。
白いローテーブル。
量販店に行けば似たものはいくらでも売っている。
それでも妙に似ていた。
リビングのゴミ箱の位置まで同じだった。
俺はソファの横に延長コードを這わせていたのだが、それも写真と同じ場所にあった。
寝室の姿見まで、俺と同じ壁に立てかけてある。
ちょっと気味が悪かった。
でも、それだけだった。
一枚だけ、変な写真があった。
寝室だった。
女がベッドの端に座っている。
下を向いていて、手元で何かを見ている。
スマホだと思う。
写真は寝室の入口あたりから撮られていた。
女はこちらを見ていない。
他の写真でもそうだったが、撮られていることに気づいていないように見えた。
恋人か旦那が撮ったのだろうと思った。
その写真だけ、なぜか少し嫌だった。
写真を撮っている人間が、部屋の入口から黙って女を見ているように感じたからだ。
封筒に戻して、捨てようと思った。
でも前の住人の物なら、勝手に捨てていいのか少し迷った。
結局、その日は封筒ごと棚の上に置いておいた。
数日後、仕事から帰って玄関で靴を脱いでいると、床に細い傷があるのに気づいた。
斜めに三本くらい。
キャリーケースでも引きずったような傷だった。
自分がつけた覚えはなかった。
でも古いマンションだし、入居したときからあったのだろう。
そのとき、あの写真を思い出した。
棚の上から封筒を取って、玄関の写真を探した。
傷が写っていた。
同じ場所。
同じ形。
当たり前といえば当たり前だった。
同じ部屋なんだから。
それから、何となく他の写真も見比べてみた。
浴室のドアの下にある小さな欠け。
窓枠のへこみ。
キッチンの壁にある薄い染み。
全部、今の部屋にもあった。
やっぱり前の住人がここで撮った写真なんだと思った。
ただ、一つだけ気になるものがあった。
リビングを撮った写真だった。
テレビの横の壁。
床から一メートルくらいのところに、小さな黒い穴が開いていた。
画鋲の跡より大きい。
直径一センチくらい。
今の壁にはない。
俺は写真を持ったまま、その場所へ行った。
壁紙はきれいだった。
でも指で押すと、
そこだけ少し柔らかかった。
穴を埋めて、上から壁紙を貼ったのかもしれない。
それ自体は別に不思議ではない。
退去後に補修したのだろう。
ただ、写真を見ていると、なんとなく落ち着かなくなった。
次の日、不動産会社に電話した。
前の住人のことを聞いた。
もちろん名前や連絡先は教えてもらえなかった。
「何かありましたか?」
と聞かれたので、
「収納の奥から、前の人の写真みたいなのが出てきて」
と説明した。
電話の向こうで少し間があった。
「写真ですか?」
「はい。この部屋で撮った写真が何枚か」
「それでしたら、処分していただいて大丈夫ですよ」
妙に早い返事だった。
「前の人に返さなくていいんですか?」
「大丈夫です」
「女性の人ですか? 前に住んでたの」
また少し間があった。
「はい。女性の方でした」
「何かあって退去したとかじゃないですよね」
「いえ、通常の退去です」
事故物件でもないし、事件も起きていない。
そう言われた。
それならいいかと思った。
その日の夜、写真を捨てることにした。
ゴミ袋へ入れる前に、なんとなくもう一度だけ見た。
やっぱり気になったのは、家具だった。
いくらなんでも似すぎている。
俺のソファは引っ越してから買ったものだった。
ネットで買った安いやつだ。
写真に写っているソファも、ほとんど同じに見える。
テレビ台もそうだった。
よく見ると、似ているどころじゃない。
テレビ台の左下に、小さく白く剥げているところがある。
俺のテレビ台にも同じ傷がある。
配送されたときからついていて、返品するほどでもないからそのまま使っていた傷だった。
そこで初めて、
変だと思った。
俺は自分のテレビ台を見た。
同じ傷。
写真を見る。
同じ場所に、同じ形。
嫌な感じがした。
写真を全部テーブルに並べた。
ソファ。
テーブル。
テレビ台。
ゴミ箱。
姿見。
全部、俺の物に見えた。
それでも、
そんなはずはないと思った。
前の住人の写真なんだから。
そう思いながら、一枚を手に取った。
そのとき、何となく写真を裏返した。
青いボールペンで数字が書いてあった。
日付だった。
「4月8日」
その下に今年の年号。
一瞬、意味が分からなかった。
俺がこの部屋に入居したのは、
4月1日だった。
別の写真を裏返した。
4月11日。
次。
4月15日。
4月19日。
全部、
俺がここに住み始めてからの日付だった。
しばらく動けなかった。
表に戻した。
キッチンで料理をしている女。
俺のキッチンだった。
女が使っているフライパンも、俺のものだった。
ソファに座ってテレビを見ている写真。
俺のソファだった。
テレビの横に置いてあるゲーム機も俺のだった。
床で洗濯物を畳んでいる写真。
畳んでいる黒いTシャツに見覚えがあった。
俺のだった。
前の住人じゃない。
知らない女が、
俺が仕事で家にいない間に、
この部屋に入っている。
そう理解した瞬間、吐きそうになった。
玄関を確認した。
鍵は閉まっていた。
窓も閉まっている。
ベランダにも誰もいない。
クローゼット。
浴室。
トイレ。
全部確認した。
誰もいなかった。
警察に電話しようと思った。
でも、その前に写真を証拠として残しておこうと思った。
一枚ずつスマホで撮影した。
そこで、
寝室の写真を手に取った。
女がベッドに座っている写真。
日付は昨日だった。
昨日の昼間。
俺は会社にいた。
女は俺のベッドに座っていた。
俺の枕。
俺の掛け布団。
枕元には、毎晩使っている白い充電ケーブルまで写っている。
間違いなかった。
その写真を撮ろうとして、
裏側に日付以外の文字があることに気づいた。
小さな字だった。
最初は日付しか見ていなかった。
「今日は遅かった」
意味が分からなかった。
他の写真も裏返した。
4月8日。
「まだ気づいていない」
4月11日。
「今日も気づいていない」
4月15日。
「棚を開けなかった」
手が震えた。
4月19日。
「見つけた」
その日は、
俺がキッチンの収納から封筒を見つけた日だった。
次の写真。
「何度も見ている」
次。
「でも裏は見ない」
俺は写真を置いた。
ここまで、
全部見られていた。
封筒を見つけたことも。
写真を何度も確認したことも。
裏返さなかったことも。
最後に残ったのは、
昨日の寝室の写真だった。
女が俺のベッドに座っている。
下を向いている。
その写真を裏返した。
日付の下に、
一行だけ書いてあった。
「今日は見ると思う」
その瞬間、
部屋の中の音が全部消えたように感じた。
玄関の鍵を確認した。
閉まっている。
窓も閉まっている。
誰もいない。
でも、
そのとき初めて気づいた。
写真に写っている女は、
一度もカメラを見ていない。
料理をしているときも。
テレビを見ているときも。
洗濯物を畳んでいるときも。
そして昨日、
俺のベッドに座っているときも。
誰かが、
少し離れたところから女を撮っている。
俺は寝室の写真をもう一度見た。
女はベッドの端に座っている。
写真は、
寝室の入口から撮られている。
つまり昨日、
俺が仕事をしている間、
この部屋には少なくとも二人いた。
生成AI:ChatGPT
モデル:GPT-5.6 Sol
制作:2026年9月
カテゴリー:人間の怖い話
タグ:ChatGPT
※本作品は生成AIによって制作されたフィクションです。

